企業のウェブサイトをいくつも開き、説明会のメモを見返す。たくさんの情報を集めたはずなのに、いざ志望企業を比較しようとすると、頭の中が整理できず、かえって混乱してしまう。そんな経験を持つ学生は少なくないかもしれません。情報収集そのものが目的になってしまい、肝心な「自分なりの判断軸」を見失ってしまうのは、非常にもったいないことです。
この記事で一緒に考えていきたいのは、単なる情報の記録方法ではありません。集めた情報を「比較できるカタチ」に整理し、あなた自身の納得感を醸成するための「企業研究シート」という思考の器の作成についてです。テンプレートも用意していますので、自分に合った企業選びの土台を、ここから一緒に作っていきましょう。
なぜ、企業研究シートが必要なのでしょうか
まず最初に、企業研究シートがなぜ有効なのか、その本質的な役割から確認しておきましょう。多くの学生が企業研究を「情報をたくさん集めること」だと捉えがちですが、本当に大切なのはその先にあります。
シートを作成する目的は、大きく二つです。
一つは、「評価軸を揃えて、客観的に比較するため」です。A社については給与を調べ、B社については福利厚生を調べるといったように、バラバラの基準で情報を見ていては、本質的な比較はできません。全社共通の項目を設けたシートに情報を落とし込むことで、初めて各社の特徴や違いが、公平な視点から浮かび上がってきます。
もう一つは、「自分の考えを言語化し、深めるため」です。シートを埋める作業は、単なる転記ではありません。「この企業の強みは何か」「自分はなぜこの点に惹かれるのか」といった問いを自身に投げかけ、考えを言葉にするプロセスそのものです。この積み重ねが、エントリーシートや面接で語る、あなただけの志望動機を形作っていきます。
情報の洪水から本質をすくい上げ、自分なりの判断基準を築くための濾過装置。それが企業研究シートの役割だと考えてみてください。
まずはここから。企業研究シートの必須項目
では、具体的にどのような項目をシートに盛り込めばよいのでしょうか。ここでは、業界や企業規模を問わず、比較検討の土台となる基本的な項目をご紹介します。まずはこれらを埋めることから始めてみましょう。
- 企業概要: 設立年、従業員数、所在地、資本金など、企業の基本的なプロフィールです。
- 企業理念・ビジョン: その企業が何を大切にし、どこへ向かおうとしているのか。企業の価値観の根幹であり、あなたの価値観と合うかを見極める重要な指標です。
- 事業内容: 「誰に」「何を」「どのように」提供しているのかを具体的に記述します。主力事業だけでなく、新規事業や今後の展開にも目を向けると、企業の将来性が見えてきます。
- ビジネスモデル・強み: どのように収益を上げているのか。他社にはない独自の技術、ブランド力、ネットワークなど、その企業の競争優位性を探ります。
- 働き方・社風: 給与、福利厚生、勤務制度(リモートワークの可否など)、研修制度、平均勤続年数、社員インタビューなどから、入社後の働く姿を具体的にイメージします。
- 選考プロセス: エントリーシート、Webテストの種類、面接の回数や形式など、今後の対策を立てるために記録しておきましょう。
- 気になった点・疑問点: 調べる中で感じた魅力や、逆に「これはどういうことだろう?」と疑問に思った点をメモしておきます。これはOB/OG訪問や説明会での質問の材料になります。
これらの項目を自分なりにカスタマイズし、あなただけのシートを作り上げていくことが大切です。例えば、海外展開に興味があれば「海外事業比率」を、働きやすさを重視するなら「月平均残業時間」などを追加するのも良いでしょう。
あなたに合った形式は?シート作成の3つの方法
企業研究シートに決まった形式はありません。大切なのは、あなた自身が続けやすく、見返しやすいことです。ここでは代表的な3つの作成方法のメリット・デメリットを見ていきましょう。
1. 手書きのノート
メリットは、PCを開く手間がなく、いつでもどこでも手軽に書き込める点です。図やイラストを交えながら、自由な発想で情報を整理できます。「書く」という行為が記憶の定着を助ける効果も期待できるでしょう。
デメリットは、情報の修正や並べ替えがしにくいこと、そして物理的な保管場所が必要になる点です。
2. ExcelやGoogleスプレッドシート
最もおすすめしたい方法です。項目を統一したフォーマットを作りやすく、複数の企業情報を一覧で比較するのに非常に優れています。ソート機能を使えば「給与が高い順」に並べ替えたり、関数を使って数値を分析したりすることも可能です。
デメリットは、入力にPCが必要なことと、自由なレイアウトには少し不向きな点でしょうか。
3. 就活支援アプリやツール
近年では、企業情報管理に特化したアプリやWebサービスも増えています。あらかじめ項目が用意されており、入力するだけで情報が整理される手軽さが魅力です。
デメリットは、サービスのフォーマットに依存するため、カスタマイズの自由度が低い場合があることです。
どの方法が一番優れているというわけではありません。それぞれの特徴を理解し、ご自身のスタイルに合ったものを選んでみてください。
【テンプレート付】すぐに使える企業研究シート
「何から始めればいいか分からない」という方のために、Excelやスプレッドシートですぐに使えるシンプルなテンプレートを用意しました。まずはこれをベースに、気になる企業を3社ほど調べてみることから始めてはいかがでしょうか。
以下の表をコピーして、ご自身のスプレッドシートに貼り付けてみてください。
企業研究シート(テンプレート)基本情報
業績・財務
経営戦略・特徴
競合分析
自分の考察・志望動機
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※最後の「自分との接点・魅力」は、調べた事実を踏まえて「だから自分はこう感じる」という主観を書き込むための項目です。
「埋めるだけ」で終わらせない。比較検討で本質を見抜く活用法
企業研究シートの価値が最も発揮されるのは、複数の企業情報が埋まった後です。シートを横に並べて、項目ごとにじっくりと見比べてみましょう。
例えば、「事業内容」の欄を見比べたとき。「同じ業界に見えても、A社はBtoBが中心で、B社はBtoCに強みがあるな」といった違いが見えてくるはずです。さらに、「企業理念」と「働き方」の項目を突き合わせてみる。「A社は『挑戦』を掲げているだけあって、若手にも裁量権が大きい制度があるようだ。一方、B社は『安定』を重視し、長期的な人材育成に力を入れている」。
このように、点と点だった情報を線で結びつけ、各社の思想や文化の違いを立体的に理解していくことが、比較検討の醍醐味です。
このプロセスを通じて、あなたは自分自身に問いかけることになります。「自分は、安定した環境でじっくり成長したいのか、それとも若いうちから裁量を持って挑戦したいのか」。比較は、他社を理解すると同時に、あなた自身の価値観や仕事選びの軸を明確にするための、重要な対話の時間なのです。
まとめ:シートは、あなただけの「判断基準の結晶」に
企業研究シートは、一度作って終わりではありません。OB/OG訪問で得た新たな情報や、選考過程で感じたことを追記し、常にアップデートしていくものです。そうして育て上げたシートは、単なる情報の記録ではなく、あなたの就職活動の軌跡そのものとなり、あなただけの「判断基準の結晶」へと変わっていきます。
面接で「なぜ、同業の他社ではなく当社なのですか?」と問われたとき。このシートに基づいて考え抜いたあなた自身の言葉は、きっと説得力を持つはずです。まずは小さな一歩から、あなただけの企業研究シート作りを始めてみませんか。





